会社名 | 日東電工株式会社 |
業種 | 化学 |
従業員数 | 連25300名 単6610名 |
従業員平均年齢 | 40.8歳 |
従業員平均勤続年数 | 12.6年 |
平均年収 | 7615000円 |
1株当たりの純資産 | 3642.47円 |
1株当たりの純利益 | 524.71円 |
決算時期 | 3月 |
配当金 | 260円 |
配当性向 | 49.6% |
株価収益率(PER) | 26.3倍 |
自己資本利益率(ROE) | 14.4% |
営業活動によるCF | 1555億円 |
投資活動によるCF | ▲679億円 |
財務活動によるCF | ▲907億円 |
研究開発費※1 | 68.33億円 |
設備投資額※1 | 306.74億円 |
販売費および一般管理費※1 | 1081.58億円 |
株主資本比率※2 | 65.8% |
有利子負債残高(連結)※3※4 | 0円 |
経営方針
【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び当社の関係会社、以下同じ)が判断したものであります。なお、業績見通し等の将来に関する記述は、当社グループが現時点で入手している情報や合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等は様々な要因により大きく異なる可能性があります。 (1)会社の経営の基本方針当社グループは、経営理念の核である「新しい発想でお客様の価値創造に貢献します。」というミッションのもと、ESG(環境・社会・ガバナンス)を経営の中心に据えて、事業を通じた社会課題の解決に努め、持続可能な未来を実現するために、地球環境と社会に貢献しながら成長し続ける企業グループを目指します。当社グループには、これまでの歴史で培ってきた基幹技術、多様な事業領域や強い知的財産、さらには幅広い業界における顧客基盤といった強みがあります。これらの強みを結集し、当社グループ独自のマーケティング活動である「三新活動」※1と「ニッチトップ戦略」※2で、イノベーションを加速させ、地球環境や社会に貢献できる製品やソリューションを創出していきます。当社グループは、ESGを経営の中心に置き、地球環境や人類・社会、世の中にとって「なくてはならない」存在となり、持続的な成長をさらに加速させるために、当連結会計年度においてサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を見直しました。当社グループは、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)領域に対して定めた10のマテリアリティに取り組むことで、社会課題の解決と経済価値の創造の両立を実現し、企業価値向上を図ります。 領域ありたい姿マテリアリティE(環境)未来の地球を守る脱炭素社会の実現循環型社会の実現生物多様性の保全PlanetFlagsTMの創出S(社会)人と社会を豊かにする安全なモノづくり多様な人財の活躍人権の支持と尊重サプライチェーンの強靭化HumanFlagsTMの創出G(ガバナンス)ステークホルダーの期待と信頼に応える経営の安全性向上 サステナビリティに関する考え方及び取組みについては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。 ※1.三新活動とは、新用途開拓と新製品開発に取り組むことで、新しい需要を創造する活動です。※2.ニッチトップ戦略とは、変化しながら成長するマーケットを見極め、その中のニッチな領域を対象に、当社グループ固有の技術・知見の融合と、ステークホルダーとの共創によりなくてはならない「製品」「機能」「ビジネスモデル」を継続的に生み出し、シェアNo.1を狙う、当社グループ独自の差別化戦略です。 (2)中長期的な会社の経営戦略① 2030年ありたい姿と中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」当社グループは、2030年ありたい姿として、“ニッチトップクリエーターとして驚きと感動を与え続ける「なくてはならないESGトップ企業」”を掲げています。「Nittoらしさ」である、「チャレンジを楽しむ」社風・文化を土壌に、「環境・人類に貢献するニッチトップ」を創出し、お客様に最高の「驚きと感動」を提供することで、豊かな未来に貢献します。当社グループは、お客様やパートナーと共創イノベーションで新たな価値を生み出し、持続可能な地球環境・人類社会になくてはならない存在として、ステークホルダーからの信頼と期待に応えてまいります。 2023年度から2025年度までを実行期間とする中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」では、「ニッチトップ戦略×Nitto流ESG戦略」の実践をスローガンに掲げ、「環境・人類に貢献する事業ポートフォリオ変革」、「ニッチトップを生み出すイノベーションモデルの進化」、「人財・チームの挑戦を加速する組織文化の改革」、「変化を先取る経営インフラへの変革」の4つの重点項目に取り組んでいます。2030年ありたい姿「なくてはならないESGトップ企業」を実現するために、中期経営計画の確実な遂行を進めていきます。 ② 中期経営計画「Nitto for Everyone 2025」の重点項目と進捗a.環境・人類に貢献する事業ポートフォリオ変革経済価値と社会価値の両軸で見極めた“伸ばすもの”に対しては重点投資を進める一方で、将来の成長が見込まれない、環境化学物質規制で製造できなくなる可能性があるなど、“残さないもの”に対しては、撤退・売却も含めた打ち手で構造改革を進めます。M&Aやスタートアップ企業への出資を含む戦略的アライアンスを積極的に活用し、新規領域では、環境ビジネス・ソリューションビジネス創出にもチャレンジすることで、事業ポートフォリオの変革を進めます。当連結会計年度は、希少疾患からより多くの患者を対象とした治療薬の商用化が進むと見込まれる核酸医薬市場での受託製造事業の需要に対して、米国及び国内で総額300億円超の設備投資を実施し、商用化対応の製造能力を持つ新工場が稼働しました。新規領域では、環境ビジネスとして、脱溶剤化などによる消費エネルギー削減に加え、製造工程での排出が避けられないCO2の回収などのネガティブエミッション技術(大気中のCO2を回収・吸収し、貯蓄・固定することで大気中のCO2を除去する技術)の開発を加速させ、CO2削減のためのトータルソリューションとしての提案に向けて取り組んでいくネガティブエミッションファクトリー構想を推進しています。 b.ニッチトップを生み出すイノベーションモデルの進化当社グループは、社会課題に対してなくてはならないニッチトップソリューションを提供する差別化技術を磨き、PlanetFlagsTM/HumanFlagsTMを生み出すこと、マーケティング力の強化で事業開発力を高めること、お客様やパートナーとの共創による事業化の加速を進めることで、これまで当社グループが培ってきた勝ち方に加えて、新しい勝ち方の確立を進めていきます。当連結会計年度においては、新たに14製品(累計24製品)をPlanetFlagsTM/HumanFlagsTMとして認定いたしました。これらの製品をGlobal Niche TopTM製品※/Area Niche TopTM製品※へ育ててまいります。環境貢献分野において、当連結会計年度では、エア・ウォーター株式会社との協業により、家畜ふん尿バイオマス由来のCO2から牧草の保存に使用されるギ酸(乳牛の飼料である牧草サイレージを生産する際に、劣化を防ぐために使用される添加剤)を製造する取組みを開始しました。ステークホルダーとの共創を通じ、CO2の有効利用による社会課題の解決と経済価値の創造の両立に貢献してまいります。また、バイオ材料開発の米国スタートアップであるCrysalis Biosciences社との共同開発により、核酸製造の重要な原材料のひとつであるアセトニトリル(溶剤)のバイオ化を推進しています。社会課題にフォーカスした次世代の環境技術を創出し、脱炭素化の加速と環境貢献分野での新規事業機会の獲得を目指します。 ※「Global Niche Top」「Area Niche Top」は当社の登録商標です。 c.人財・チームの挑戦を加速する組織文化の改革当社グループは、「人財は最も重要な財産」と位置付けています。持続的な成長に必要となる新しいイノベーションを生み出すために、チャレンジする機会の拡充と人事・育成制度の変革を行います。また、多様な事業展開や新たな勝ち方の構築を加速するために、事業開発人財の育成や異業種人財の獲得を強化し、個々の活躍を支えるインクルージョン施策に取り組みます。全ての従業員が活き活きと働く会社を目指し、「Nittoらしい」人的資本経営を進めてまいります。従業員の声を集め、会社としての課題、各部署の課題を考え、一人ひとりが活き活きと働ける組織づくりにつなげるため、隔年でグローバルエンゲージメントサーベイを実施しています。2023年度のサーベイ(回答率94%、回答者数23,776人)は、エンゲージメントスコアが前回比7pt上昇の81になり、各社・各拠点の活動の成果が表れる結果となりました。また、専門性と多様性を拡充するため、当社において、2021年度よりキャリア人財の採用を強化しています。当連結会計年度においては、新卒人財とほぼ同数のキャリア人財を採用しました。上記を含む様々な取組みの推進、積極的な情報発信を行ったことで、「人的資本調査2023」における「人的資本リーダーズ2023」及び「人的資本経営品質(ゴールド)」を受賞、また、「D&I AWARD 2023」において、最高評価の「BEST WORKPLACE」に認定されました。 d.変化を先取る経営インフラへの変革当社グループが目指す「ニッチトップ戦略×Nitto流ESG戦略」の実践には、取り巻く事業環境の変化を先取りすることが必要です。地政学リスクをはじめとしたサプライチェーンリスクへの先見力と対応力の向上や、デジタル活用によるデータドリブン経営の実践、資本効率性が高い、強靭な財務体質の維持・向上など、「なくてはならないESGトップ企業」を支える強靭な経営インフラへ、変革を進めます。当連結会計年度においては、強靭なサプライチェーンを構築するために設立したサプライチェーンコミッティ活動の中で、地政学リスクや化学物質規制リスクなどのリスク対応や、未財務目標のひとつであるサステナブル材料使用率を高める取組みを推進しました。また、資本効率性が高い、強靭な財務体質を維持・向上するため、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を明確にしました。当社グループは、ROE(財務領域)とPER(未財務領域)双方の観点からPBR向上を目指す考え方のもと、ROEを主たる経営指標の一つとして位置づけ、当期利益率と資産回転率に主眼を置き、三新活動、ニッチトップ戦略、成長戦略と構造改革の遂行、ビジネスモデルの変革を進めてまいります。 (3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等当社グループは、「Nitto for Everyone 2025」において、2025年度末における経営上の目標を、営業利益1,700億円、営業利益率17%及びROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)15%と定めました。また、当社グループでは、現時点では未だ財務には至っていないが将来的に財務となり得る要素、あるいは財務に転換していく要素を“未財務”と呼び、9つの未財務指標を設定しています。これら未財務指標の目標達成に向けた活動を推進することで変革を加速し、企業価値向上を図ります。なお、環境系未財務指標のひとつであるCO2排出量は、「Nittoグループ カーボンニュートラル2050」の達成に向け、Scope1+2をターゲットに目標を設定しており、2023年度のCO2排出量は目標値を大幅に達成する見込みです。今後は、さらなる気候変動への対応を加速すべく、脱溶剤化や再生可能エネルギーの推進※1などに取り組み、2030年度目標を470kton/年からSBT※2に基づく400kton/年へと上方修正しています。 ※1.当社グループは、使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指していることから、RE100(企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ)への加盟を申請中です(2024年4月末現在)。※2.SBTとは、Science Based Targetsの略で、パリ協定で採択された科学的根拠に基づく目標(産業革命前比で気温上昇を1.5℃未満に抑える目標)と整合した、企業が設定する「温室効果ガス排出削減目標」を指します。当社グループは現在SBT申請中です(2024年4月末現在)。 未財務指標2023年度実績2025年度目標2030年度目標関連するマテリアリティ製品系新製品比率(1)41%35%以上35%以上-ニッチトップ売上収益比率(2)44%50%50%以上-PlanetFlagsTM/HumanFlagsTMカテゴリ売上収益比率(3)36%※貢献製品認定品40%50%以上PlanetFlagsTMの創出HumanFlagsTMの創出環境系CO?排出量(4)525kton/年550kton/年400kton/年脱炭素社会の実現廃プラスチックリサイクル率(5)47%50%60%循環型社会の実現サステナブル材料使用率(6)16%※国内(単体)20%30%人財系女性リーダー比率(7)20%24%30%多様な人財の活躍エンゲージメントスコア(8)817885チャレンジ比率(9)37%70%85% (1)当社グループの競争力の源泉である新製品の創出度合を計る指標(2)なくてはならないNitto製品の拡大を計る指標(3)Nitto流ESG経営の根幹であるPlanetFlagsTM/HumanFlagsTM製品の拡大を計る指標(4)「Nittoグループカーボンニュートラル2050」に向けた取組みの進捗を計る指標(5)サーキュラーエコノミーに対する取組みの進捗を計る指標(6)環境やサプライチェーンの人権を考慮したサステナブルな材料の調達度合を計る指標(7)組織を牽引する女性リーダー増加によるダイバーシティの促進を計る指標(8)組織の業績成長との関係性が強い、従業員の「帰属意識・貢献意欲」「生産的な職場環境」「心身の健康・活力」の3要素を計る指標(9)新たな価値創造に向けて自分の経験や可能性を拡げるチャレンジをした従業員の割合を計る指標 (注)CO2排出量及び廃プラスチックリサイクル率の2023年度実績数値については、提出日時点の集計値であり、第三者保証を取得した数値については、Nittoグループ サステナビリティデータブック 2024にて開示いたします。 (4)各報告セグメントの戦略と取組み各報告セグメントにおける主な戦略と取組みは、次のとおりであります。 ・インダストリアルテープインダストリアルテープは、生成AIの普及や先進運転支援システムの技術進歩を背景に、半導体やセラミックコンデンサー向け工程用材料の需要が増加することが見込まれます。自動車材料は、モーターやバッテリーの周辺部材である絶縁材料やサブガスケット材の拡販とEVの性能向上に資する熱マネジメント材料の開発に取り組みます。また、急速に高まっている電子機器における修理する権利(Right to Repair)の機運に対し、当社グループの剥離技術を活用した新製品を投入し、事業拡大を図ります。これらの取組みを通じて、インダストリアルテープ全体として安定的に高い利益率を生み出せる事業基盤の構築を目指します。 ・オプトロニクスオプトロニクスにおける情報機能材料は、ディスプレイ市場が成熟化する中、フォルダブルスマートフォンなどのハイエンド製品向けに注力します。また、光学フィルムとその他周辺部材を合わせたトータルソリューションで、顧客の生産性向上や環境負荷低減に貢献します。当社グループの強みである耐久性に優れた車載向け光学フィルムは、1台当たりのディスプレイ搭載数の増加や面積拡大により需要は堅調に推移すると見込まれます。なお、英国の拡張現実(AR)グラス開発企業TruLife Optics社の株式を一部取得することを決定しました。ARグラスの性能や快適さを向上させるために、当社グループの強みである光学設計技術や薄膜・多層塗工などの粘接着技術を活かした材料開発に注力していきます。回路材料は、HDD市場の在庫調整が一巡し、需要が再び増加することが見込まれます。さらにデータセンター向けHDD市場において、新たな技術が実用化されるなど、HDDの高容量化が一段と進むことが想定されます。これらの需要に対し、ベトナム拠点に新工場を建設し、生産能力を増強する予定です。ハイエンドスマートフォン向け高精度基板は、顧客との関係を深め、将来の成長に資する製品の開発に取り組みます。 ・ヒューマンライフヒューマンライフにおけるライフサイエンスは、核酸医薬の受託製造事業において、希少疾患からより多くの患者を対象とした治療薬の商用化への移行が期待されており、市場は中長期的に成長することが想定されます。また、核酸医薬市場の拡大を背景に、その製造に使用される合成材料(NittoPhaseTM)の需要増加が見込まれます。これらの成長市場に対して、生産能力の増強や生産性向上を図ります。核酸創薬においては、核酸DDS(Drug Delivery System)設計技術の開発とライセンス契約締結に注力していきます。なお、難治性の癌治療薬の開発は、臨床第1相試験が完了の見込みです。メンブレンは、海水淡水化向けを戦略的に縮小する一方で、各国における排水規制強化に対して、排水・廃液のゼロ化に貢献する製品の需要が増加すると見込んでいます。パーソナルケア材料は、おむつ向け衛生材料の新製品と生分解性技術を用いた環境貢献型製品の拡販により、収益性の改善を図ります。 ・その他その他における新規事業では、PlanetFlagsTM/HumanFlagsTMの候補となるテーマに経営資源を集中的に投入し、早期の事業化を目指します。 |
経営者による財政状態の説明
【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】経営成績等の状況の概要(1)財政状態当連結会計年度末(以下「当期末」という。)の資産合計は、前連結会計年度末(以下「前期末」という。)に比べ97,440百万円増加し、1,251,087百万円となりました。流動資産は40,767百万円増加の717,957百万円、非流動資産は56,672百万円増加の533,130百万円となりました。流動資産の増加は、現金及び現金同等物が12,302百万円増加したこと、売上債権及びその他の債権が30,952百万円増加したこと、棚卸資産が4,296百万円減少したこと、その他の金融資産が3,079百万円増加したこと、その他の流動資産が3,962百万円増加したこと、売却目的で保有する資産が5,232百万円減少したことによるものであります。非流動資産の増加は、有形固定資産が45,432百万円増加したこと、使用権資産が6,361百万円増加したこと、のれんが7,234百万円増加したこと、繰延税金資産が2,435百万円減少したこと等によるものであります。当期末の負債合計は、前期末に比べ15,586百万円増加し、266,038百万円となりました。流動負債は18,608百万円増加の206,856百万円、非流動負債は3,022百万円減少の59,182百万円となりました。流動負債の増加は、仕入債務及びその他の債務が7,131百万円増加したこと、未払法人所得税等が5,086百万円減少したこと、その他の金融負債が16,234百万円増加したこと、その他の流動負債が1,693百万円増加したこと、売却目的で保有する資産に直接関連する負債が1,436百万円減少したこと等によるものであります。非流動負債の減少は、その他の金融負債が5,114百万円増加したこと、確定給付負債が6,884百万円減少したこと等によるものであります。当期末の資本合計は、前期末に比べ81,853百万円増加し、985,048百万円となりました。これは、利益剰余金が、親会社の所有者に帰属する当期利益、配当金、自己株式の消却等により前期末に比べ21,792百万円増加したこと、自己株式が4,333百万円減少したこと、その他の資本の構成要素が55,802百万円増加したこと等によるものであります。 (2)経営成績当連結会計年度における経済環境は、インフレに伴う金融引締めの継続やロシア・ウクライナ戦争に加え、中東での紛争勃発による地政学リスクの高まりで、地域間の強弱があるものの、世界的に景気は減速しました。米国では、利上げの効果がみられる一方で、人手不足を背景としたサービス価格の高止まりなどの根強いインフレが残っていることから、連邦準備制度理事会(FRB)は、5会合連続で金利を据え置きました。中国では、長引く不動産不況が影響し、個人消費が低調に推移しました。また、米中貿易摩擦による輸出入の制約やサプライチェーンの見直しを背景とした対中投資の減少が景気回復の重石になっています。日本では、インバウンド需要や企業の設備投資が堅調に推移し、景気が緩やかに回復しました。なお、為替相場は、日銀によるマイナス金利政策の解除後も、依然として日米の金利差に乖離があり、円安の流れが継続しました。このような中、当社グループの主要な市場においては、ハイエンドスマートフォン向けに光学フィルムや透明粘着シート、工程保護フィルムの需要が増加しました。また、車載ディスプレイや新たな市場として、仮想現実(VR)向け光学フィルムの需要が増加しました。自動車材料は半導体不足の影響が緩和し需要が回復しました。半導体や電子機器の生産に使用される製品は、在庫調整が一巡し需要が緩やかに回復しました。一方、ハイエンドノートパソコン、タブレット端末用光学フィルム及びデータセンター向け製品は市況の悪化により需要が減少しました。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン向け核酸アジュバント(核酸免疫補強剤)は当連結会計年度において売上収益を計上しておりません。なお、当連結会計年度の対米ドル為替レートは、前連結会計年度と比較し6.8%円安の1ドル143.9円となり、円安による影響は、営業利益で240億円の増益要因となりました。以上の結果、売上収益は前連結会計年度と比較し、1.5%減(以下の比較はこれに同じ)の915,139百万円となりました。また、営業利益は5.5%減の139,132百万円、税引前当期利益は5.4%減の138,901百万円、当期利益は6.0%減の102,755百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は5.9%減の102,679百万円となりました。 セグメント別の経営成績① インダストリアルテープ 基盤機能材料は、前連結会計年度に対して売上収益が伸長しました。ハイエンドスマートフォン向け組み立て用部材は、新製品の投入により需要が増加しました。また、自動車材料は、第1四半期連結会計期間に譲渡したNVH(Noise, Vibration, Harshness)事業を除くと、国内や欧州を中心に自動車生産が回復し、需要が増加しました。半導体メモリやセラミックコンデンサーの生産に使用される工程用材料は、前第4四半期連結会計期間を底に緩やかに回復基調となり、需要が増加しました。 以上の結果、売上収益は352,158百万円(2.7%増)、営業利益は39,281百万円(44.3%増)となりました。 ② オプトロニクス 情報機能材料は、売上収益が前連結会計年度に及びませんでした。ハイエンドノートパソコンやタブレット端末の巣籠り需要が一巡し、光学フィルムや透明導電性フィルムの需要が減少しました。一方、ハイエンドスマートフォン向けでは光学フィルムに加えて透明粘着シートや工程保護フィルムの需要が堅調に推移しました。また、VR向け光学フィルムは新たな生産ラインで量産を開始しました。 回路材料は、売上収益が前連結会計年度に及びませんでした。CIS(Circuit Integrated Suspension)は、データセンターでの高容量ハードディスクドライブ(HDD)の需要が減少し、業務効率化などによるコスト抑制を進めました。ハイエンドスマートフォン向け高精度基板は、前連結会計年度比で搭載機種が増加しました。 以上の結果、売上収益は469,909百万円(2.6%減)、営業利益は123,971百万円(2.7%減)となりました。 ③ ヒューマンライフ ライフサイエンスは、売上収益が前連結会計年度に及びませんでした。核酸受託製造は、COVID-19の収束に伴い、ワクチン向け核酸アジュバントの需要が減少しました。一方、核酸医薬市場は、大型疾患向けの商用化が見込まれており、今後の需要拡大への対応として米国マサチューセッツ州の拠点に新設した工場で、試作生産を開始しました。核酸医薬の創薬は、肺線維症治療薬の臨床第2相試験の結果を受けて、ブリストルマイヤーズ スクイブ社より追加インライセンスのオプション権を行使しないとの通知を第2四半期連結会計期間に受領しました。また、同社より、当社との肝線維症・肝硬変に関する製剤の独占ライセンス契約に基づく、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療を対象とした臨床第2相試験についても中止するとの通知を受領しました。なお、難治性の癌治療薬は、ライセンスアウトに向けて、引き続き治験に取り組んでおります。医療関連材料は、経皮吸収薬の需要が通院患者の増加に伴い回復しました。 メンブレン(高分子分離膜)は、売上収益が前連結会計年度に及びませんでした。各種産業用途向け高分子分離膜の需要が中国を中心に減少しました。 パーソナルケア材料は、2022年6月に買収したMondi社のパーソナルケア事業が通年で寄与したことにより、前連結会計年度に対して売上収益が伸長しました。主力であるおむつ向け製品に加え、コア材料である機能性フィルムの特性を活かした新たな用途展開を進めるとともに、生分解性技術を用いた環境貢献型の新製品開発に取り組んでおります。 以上の結果、売上収益は124,501百万円(3.2%減)、営業損失は9,490百万円(前年同期は営業利益519百万円)となりました。 ④ その他 当セグメントには未だ十分な売上収益を伴っていないその他製品が含まれております。主として、開発者向けにフレキシブルセンサのキット販売を行っております。 以上の結果、売上収益は12百万円(7.0%減)、営業損失は5,661百万円(前年同期は営業損失3,892百万円)となりました。 当連結会計年度において、報告セグメントの分類に一部変更があります。変更点は以下のとおりであります。1.従来の「プリント回路」の名称を「回路材料」へ変更しました。2.「その他」のプラスチック光ファイバー・ケーブル事業を「オプトロニクス」の「回路材料」へ移管しました。3.「ヒューマンライフ」の「パーソナルケア材料」の一部関連事業を「インダストリアルテープ」へ移管しました。4.「調整額」に含まれる一部事業を「その他」へ移管しました。 当該変更を反映した組替後の数値で前連結会計年度との比較を行っております。 (3)キャッシュ・フローの状況当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は342,269百万円となり、前連結会計年度末より12,302百万円増加しました。各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。(営業活動によるキャッシュ・フロー)営業活動の結果、増加した資金は155,521百万円(前連結会計年度は181,702百万円の増加)となりました。これは主に、税引前当期利益138,901百万円、減価償却費及び償却費60,811百万円、減損損失1,651百万円、確定給付負債の増減額1,371百万円、棚卸資産の増減額11,769百万円、仕入債務及びその他の債務の増減額3,804百万円、利息及び配当金の受入額2,065百万円による増加、売上債権及びその他の債権の増減額19,033百万円、前受金の増減額1,312百万円、法人税等の支払額又は還付額41,030百万円による減少の結果であります。(投資活動によるキャッシュ・フロー)投資活動の結果、減少した資金は67,927百万円(前連結会計年度は159,906百万円の減少)となりました。これは主に、有形固定資産及び無形資産の取得による支出67,774百万円、定期預金の増減額2,465百万円による減少、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による収入1,871百万円による増加の結果であります。(財務活動によるキャッシュ・フロー)財務活動の結果、減少した資金は90,784百万円(前連結会計年度は57,627百万円の減少)となりました。これは主に、リース負債の返済による支出7,631百万円、自己株式の増減額47,167百万円、配当金の支払額36,041百万円による減少の結果であります。 なお当社グループのキャッシュ・フロー指標の推移は以下のとおりであります。 2021年3月期2022年3月期2023年3月期2024年3月期 親会社所有者帰属持分比率(%)74.175.078.278.7 時価ベースの親会社所有者帰属持分比率(%)144.9119.3108.1155.8 キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年)0.20.20.10.2 インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)188.3269.8337.4255.0 (注)1 各指標はいずれも連結ベースの財務数値を用いて、以下の計算式により算出しております。 親会社所有者帰属持分比率(%) 親会社所有者帰属持分÷総資産 時価ベースの親会社所有者帰属持分比率(%) 株式時価総額÷総資産 キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年) 有利子負債÷キャッシュ・フロー インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍) キャッシュ・フロー÷利払い2 株式時価総額は、期末株価終値×自己株式控除後の期末発行済株式数により算出しております。3 キャッシュ・フローは、営業キャッシュ・フローを利用しております。4 有利子負債は、連結財政状態計算書に計上されている負債のうち、利子を支払っている全ての負債を対象としております。 生産、受注及び販売の実績(1)生産実績 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。セグメントの名称金額(百万円)前年同期比(%)インダストリアルテープ210,257100.1オプトロニクス527,879103.7ヒューマンライフ112,86096.8その他341.3合計850,999101.9 (注)1 金額は、売価換算値によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。2 当連結会計年度において、報告セグメントの分類に一部変更があります。前年同期比は、当該変更を反映した前連結会計年度の数値に基づき算定しております。 (2)受注実績 当社グループは、おおむね需要動向から見た見込み生産を行い、それ以外の製品については一部受注生産を行っておりますが、受注生産高の売上高に占める割合の重要性が乏しいため、記載を省略しております。(3)販売実績 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。セグメントの名称金額(百万円)前年同期比(%)インダストリアルテープ347,206102.7オプトロニクス449,96695.9ヒューマンライフ116,62996.9その他1,336104.9合計915,13998.5 (注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対応する割合は、販売実績が総販売実績の100分の10以上の相手が無いため記載を省略しております。3 当連結会計年度において、報告セグメントの分類に一部変更があります。前年同期比は、当該変更を反映した前連結会計年度の数値に基づき算定しております。 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容当連結会計年度(以下「当期」という。)は、売上収益は前連結会計年度(以下「前期」という。)と比べて1.5%減の915,139百万円となりました。これはライフサイエンスの売上収益が減少したこと等によるものです。売上原価は、前期比1.2%減の584,280百万円となりました。売上収益に対する売上原価の比率は、前期比0.1ポイント増の63.8%となりました。販売費及び一般管理費は、前期比0.5%増の146,143百万円となりました。売上収益に対する販売費及び一般管理費の比率は、前期比0.3ポイント増の16.0%となりました。研究開発費は、前期比8.2%増の43,485百万円となりました。売上収益に対する研究開発費の比率は、前期より0.5ポイント増加し4.8%となりました。以上の結果、営業利益は前期比5.5%減の139,132百万円となりました。税引前当期利益は前期比5.4%減の138,901百万円となりました。法人所得税費用は、前期の37,576百万円から、当期は36,146百万円となり、税効果会計適用後の法人税等の負担率は26.0%(前期は25.6%)となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期比5.9%減の102,679百万円となりました。基本的1株当たり当期利益は、前期比2.6%減の719円57銭となりました。 なお、経営成績の概況及びセグメント別の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 経営成績等の状況の概要」に記載しております。資本の財源及び資金の流動性 当社グループは、変化の激しい事業環境下においても継続的に企業価値を向上させていくために、資金の使途を①設備投資、②配当、③M&A、④自己株式取得と順位付けし、経営の目安としています。 当社グループの資金の源泉は、主として自己資金であり、トレジャリーマネジメントシステムを活用し、グループ内資金をタイムリーに漏れなく把握するとともに、各エリアに設置した資金統括拠点へ配当やキャッシュ・プーリングを活用して集約し、資金効率の向上に努めています。 なお、当連結会計年度末の連結借入金総額は前連結会計年度末に比べ72百万円増加し、345百万円となりました。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は342,269百万円となっております。 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針の要約 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載しております。 |
※本記事は「日東電工株式会社」の令和6年3月期 有価証券報告書を参考に作成しています。
※1.値が「ー」の場合は、XBRLから該当項目のタグが検出されなかったものを示しています。 一部企業では当該費用が他の費用区分(販管費・原価など)に含まれている場合や、報告書には記載されていてもXBRLタグ未設定のため抽出できていない可能性があります。
※2. 株主資本比率の計算式:株主資本比率 = 株主資本 ÷ (株主資本 + 負債) × 100
※3. 有利子負債残高の計算式:有利子負債残高 = 短期借入金 + 長期借入金 + 社債 + リース債務(流動+固定) + コマーシャル・ペーパー
※4. この企業は、連結財務諸表ベースで見ると有利子負債がゼロ。つまり、グループ全体としては外部借入に頼らず資金運営していることがうかがえます。なお、個別財務諸表では親会社に借入が存在しているため、連結上のゼロはグループ内での相殺消去の影響とも考えられます。
この記事についてのご注意
本記事のデータは、EDINETに提出された有価証券報告書より、機械的に情報を抽出・整理して掲載しています。 数値や記述に誤りを発見された場合は、恐れ入りますが「お問い合わせ」よりご指摘いただけますと幸いです。 内容の修正にはお時間をいただく場合がございますので、予めご了承ください。
報告書の全文はこちら:EDINET(金融庁)
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