ENEOSホールディングス株式会社の基本情報

会社名ENEOSホールディングス株式会社
業種石油・石炭製品
従業員数連43683名 単888名
従業員平均年齢44歳
従業員平均勤続年数18年
平均年収9478427円
1株当たりの純資産656.49円
1株当たりの純利益2.67円
決算時期3月
配当金22円
配当性向823%
株価収益率(PER)273.56倍
自己資本利益率(ROE)0.4%
営業活動によるCF10102億円
投資活動によるCF▲2409億円
財務活動によるCF▲3310億円
研究開発費※1321.02億円
設備投資額※13726.21億円
販売費および一般管理費※19523.83億円
株主資本比率※247.1%
有利子負債残高(連結)※3※40円
※「▲」はマイナス(赤字)を示す記号です。
経営方針
【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】文中の将来に関する事項は、当社が本報告書提出日現在において判断したものです。 (1)会社の経営の基本方針当社は、事業活動の基礎となる「ENEOSグループ理念」を次のとおり定めています。 また、当社グループを取り巻く事業環境はかつてない転換期を迎えています。このような環境の下、「ENEOSグループ理念」の実現に向けて「『今日のあたり前』を支え、『明日のあたり前』をリードする。」を新たな決意として掲げました。ENEOSグループは、困難な課題に挑戦し、「明日のあたり前」を創りつづけるリーディングカンパニーとして、ステークホルダーの皆様からの一層の信頼に応えていきます。 (2)ENEOSグループ長期ビジョン足下の事業環境は、エネルギーセキュリティの揺らぎ、カーボンニュートラルに向けた社会的コンセンサスの形成、デジタル・トランスフォーメーションの更なる進展等、変化のスピードは加速しており、脱炭素・循環型社会の実現に向けて、エネルギートランジションに挑戦することが強く求められています。このような課題認識のもと、当社グループは、次のとおり「ENEOSグループ長期ビジョン」を2023年5月に公表しています。 今後の事業環境を展望すると、社会がカーボンニュートラルへ進むことが確実と考えられる一方、カーボンニュートラルエネルギーの主役や必要な技術ブレイクスルーの時期は依然として不透明であり、また、このような状況であってもS+3E(注1)を満たしつつ、カーボンニュートラル社会へスムースに転換する必要があります。こうした状況の中で、当社グループは、日本のエネルギートランジションをリードし、カーボンニュートラル社会においても国内の一次エネルギーの2割を供給(SAF(注2)・水素・合成燃料で最大シェア)するメインプレイヤーでありたいと考えています。(注)1.安全性(Safety)、安定供給(Energy security)、経済性(Economic efficiency)、環境(Environment)2.Sustainable Aviation Fuel :持続可能な航空燃料 現段階では、カーボンニュートラル社会の主役となるエネルギーは明確ではありませんが、当社グループは、カーボンニュートラル社会の主力となる次世代エネルギーへの強みを発現すべく、着々と布石を打ってきました。また、デジタル社会の中心素材となる製品群や高度なリサイクル技術に加え、シェアリングエコノミーの進展を支えるインフラ/ビジネスネットワークも保有しています。当社グループが有する様々なシナリオに対応する高いレジリエンス、2030年以降の大きな収益ポテンシャル(成長機会)を活かし、すべてのステークホルダーの期待に応えていきます。2040年度に向けて、当社グループは、化石燃料中心のポートフォリオを脱炭素分野へシフトしながら、エネルギートランジションを進化させていきます。ROIC/事業領域別収益規模は、次のとおりです。 (3)目標とする経営指標当社は、2023年5月に2023年度からの3ヵ年の第3次中期経営計画(2023-2025年度)を策定しています。本中計期間を長期ビジョンの実現に向けた「周到な準備と展開」に注力する期間と位置付け、「確かな収益の礎の確立」、「エネルギートランジション実現への取組加速」及び「経営基盤の強化」を基本方針として、諸施策を着実に実行しています。 <基本方針> <第3次中期経営計画の進捗>①確かな収益の礎の確立第3次中期経営計画の基本方針である「確かな収益の礎の確立」を成し遂げるべく、製油所稼働率の改善に向けた取組を推進しました。具体的には、要因別にトラブルを分析した上で、機器保全戦略の見直しや施工業者との知見共有、マネジメント体制強化等の施策を講じました。結果として、当連結会計年度における製油所の計画外停止の割合(UCL)は、7%となりました。併せて、収益改善も強力に推し進めるべく、組織体制の最適化や高度な採算管理・業務効率化といった聖域なきビジネスプロセス改革(BPR)にも取り組みました。当連結会計年度は、専任組織であるビジネスプロセス改革部のもと、部門を横断した60以上のワーキンググループにおいて取り組んだ結果、約270億円(2か年累計で約470億円)の収益改善を実現しました。 ②エネルギートランジション実現に向けた取組カーボンニュートラル社会においても当社グループが国内一次エネルギー供給のメインプレイヤーであり続けるべく、当連結会計年度においてもエネルギートランジション実現に向けた取組を推進しました。具体的には、再生可能エネルギーの分野において、国内外計11か所の風力・太陽光発電所の運転を開始し、また、秋田県八峰町及び能代市沖における洋上風力発電事業者に当社グループが代表を務めるプロジェクト会社が選定されました。 ③経営基盤の強化幅広い事業領域を持つ当社グループにあって、急速に変化する事業環境に対応するためには、各事業の成果をさらに見える化することで資本効率を追求するとともに、スピード感を持ってそれぞれの事業特性に応じた成長戦略を実行する必要があります。このため、2024年4月、従来はENEOS株式会社(以下、ENEOS)傘下にあった機能材事業、電気・都市ガス事業及び再生可能エネルギー事業を当社の直下に配置し、主要な事業会社を6社とする分社化型のグループ運営体制に移行しました。同時に、ENEOSにおいても事業毎の運営・採算と経営の責任をより明確にすべく当社と同社との実質的事業持株会社体制を解消しました。 さらには、主要な事業会社に横串を通し、会社間の連携強化や資源配分の最適化等を行うことでグループガバナンスをよりよいものとすべく、グループCxOを設置しました。当社の強いリーダーシップのもと、主要な事業会社間の連携強化、資源配分の最適化、ポートフォリオ経営の推進によって、各事業の成長を推進します。 ④財務目標の実績及び見通し第3次中期経営計画から、ROICを財務目標に加えています。このROICは、事業リスクを考慮したうえで株主資本コストを設定し、そこから当社の戦略・強み等を考慮した付加価値を想定して、事業別に設定しています。第3次中期経営計画最終年度となる2025年度において、インキュベーション(現時点では実証段階にある等の事業として評価が相応しくない水素・合成燃料等の事業)を除き、事業全体で7%以上とすることを目標としました。現時点の主な経営指標の見通しは以下のとおりです。 ⑤株主還元株主の利益還元は、引き続き経営上の重要課題であると認識しており、中期的な連結業績推移及び見通しを反映した利益還元の実施を基本に、安定的な配当の継続に努める方針です。第3次中期経営計画期間中は、3か年平均で、在庫影響除き当期利益の50%以上を「配当と自社株買い」で還元するとともに、安定的な配当継続に配慮し、22円/株の配当を下限とする考えです。資本効率の追求やポートフォリオの入れ替え等により財務体質が良化したことを踏まえ、この方針のもと本年2月公表分とあわせて総額2,500億円を上限とする自己株式を取得することを2024年5月14日に決定しました。これにより、2023年度2024年度平均での総還元性向は85%になる見込みです。 ⑥企業価値向上に向けた取組昨年度からROEは大幅に良化しているものの、継続的なエクイティスプレッドの創出については未だ課題が残されており、結果としてPBRが1倍を下回る状況が継続しているものと分析しています。まずは、「稼ぐ力」の強化と「最適な資本構成」の実行により、継続的なエクイティスプレッドの創出を進めていくこと、そして 、エネルギートランジションに向けた取組を確実に進捗させていくとともに、市場との対話を進めていくことで、資本コストの低減・期待成長率の向上を進めていくことが、重要であると考えています。 (4)対処すべき課題<「あるべきENEOSグループ」の実現に向けた取組>当社グループにおいて、2年連続で経営トップが「ENEOSグループ理念」に反する不適切な行為に及んだことは痛恨の極みであります。当社は、この事実を厳粛に受け止め、一層強化した再発防止策に徹底して取り組むとともに、エネルギートランジションを牽引していくことのできる「あるべきENEOSグループ」の実現に向けて、次の取組に全力を注ぐこととしました。 ①従業員が安心し、誇りを持って働ける環境の再整備長期ビジョンを実現するためにはそれを牽引する人材の確保・育成が極めて重要であると考え、従来、従業員の能力開発、リスキリング等の人的資本の強化やタレントマネジメントの充実を推進し、さらには、エンゲージメントの向上に努めてきました。しかしながら、今般、当社の重要なステークホルダーである従業員を失望させてしまったことを受け、「従業員が安心し、誇りを持って働ける環境の再整備」に徹底的に取り組みます。具体的には、「ENEOSの強み」として残すべきものと、変えていくべきもの等を精査し、それらに向かう施策を検討・実行します。また、従業員との信頼関係を維持・向上すべく、定期的なエンゲージメント調査等を実施し、結果とその対応状況の見える化も行います。 ②継続的なガバナンス改革長期ビジョンの実現に必要なスキルを備えた社外取締役が当社の経営を監督・指導する体制としておりますが、一層その透明性・客観性を高めるべく、「継続的なガバナンス改革」に取り組んでいます。具体的には、取締役会における社内論理での議事進行を徹底的に排除し、また、議題選定にも外部の目線を一層取り入れるべく、社外取締役の比率を50%超とするとともに、取締役会の議長を社外取締役にします。併せて、「あるべきENEOSグループ」へと牽引するリーダーである当社経営トップを選定・育成すべく、「次世代のENEOSグループを担う人材像」を改めて定義した上で、後継者計画(サクセッションプラン)を再構築します。また、取締役会が同計画のブラッシュアップとモニタリングを継続することにより、変化する時代の中でも常に社会から必要とされ、信頼される会社であることを維持します。 <第3次中期経営計画の迅速かつ着実な実行>①「確かな収益の礎の確立」に向けて具体的に取り組む事項当社は、以上のとおり、「あるべきENEOSグループ」を確立するとともに、長期ビジョンの実現に取り組みますが、「周到な準備と展開」に注力する第3次中期経営計画期間において「確かな収益の礎の確立」に向けて具体的に取り組む事項は次のとおりです。加えて、各事業における技術の開発、有力なパートナーとの連携、国からの支援制度の活用等、バランスシートに計上されない無形資産の形成にも注力し、これらの施策全体により収益最大化を図ります。 ②JX金属株式会社の上場準備当社とJX金属株式会社(以下、JX金属)の更なる企業価値向上を目的として、JX金属の上場に向けた準備を進めます。この施策を通じて、当社は、JX金属の高い成長性を株式市場に対して適正に訴求し、ポートフォリオ転換のための投資や株主への機敏かつ確実な還元を実行します。JX金属は、事業特性に応じた迅速な意思決定と成長分野における各種戦略の実行を実現します。また、独立経営体制を確立すべく将来的には、持分法適用関連会社への移行を目指します。 <次期の連結業績予想について(2024年5月公表)>製油所トラブルの抑制や石油製品の輸出数量増加のほか、2023年度に出荷を開始した既存ガス田拡張プロジェクトの年間貢献等による数量影響良化、半導体材料及び情報通信材料での販売回復等を織り込む一方で、白油・輸出マージンのプラスタイムラグの解消や輸出市況の悪化、金属事業における出資鉱山の減産や銅事業子会社株式の一部譲渡による利益剥落等を織り込んでいます。前提条件に基づく次期の業績予想は下記のとおりです。●前提条件(2024年4月以降)為替:145円/ドル、原油(ドバイスポット):80ドル/バーレル銅価:380セント/ポンド売上高:14兆6,000億円 営業利益:4,000億円 親会社の所有者に帰属する当期利益:2,100億円在庫影響(総平均法及び簿価切下げによる棚卸資産の評価が売上原価に与える影響)を除いた営業利益相当額は、営業利益と同額の4,000億円と見込んでいます。なお、従来はENEOS傘下にあった機能材事業、電気・都市ガス事業及び再生可能エネルギー事業を当社の直下に配置し、2024年4月に分社化しました。これに伴い、2024年度より報告セグメントを変更します。(変更前)エネルギー、石油・天然ガス開発、金属(変更後)石油製品ほか、機能材、電気、再生可能エネルギー、石油・天然ガス開発、金属
経営者による財政状態の説明
【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(1)経営成績等の状況の概要<当社グループを取り巻く環境>当連結会計年度においては、各国の金融引き締め政策に伴う景気減速懸念や中国の景気回復遅れ等を受け、世界経済の回復ペースは鈍化しました。一方、わが国経済については、物価上昇による家計や企業への影響や世界経済の下振れ懸念はあるものの、新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う行動制限の解除を受け、経済社会活動の正常化が進み、緩やかな回復が継続しました。当連結会計年度における原油価格(ドバイ原油)は、期初は1バーレル当たり84ドルから始まり、期末には86ドル、期平均では前年同期比11ドル安の82ドルとなりました。期中はOPECプラスの協調減産に関する合意を巡り上下したものの、世界的な情勢不安や堅調な米国景気等を要因に、期末にかけて上昇しました。銅の国際価格(LME〔ロンドン金属取引所〕価格)は、期初は1ポンド当たり407セントから始まり、期末には396セント、期平均では前年同期比9セント安の379セントとなりました。世界的な景気減速懸念により軟調に推移しましたが、3月の中国製錬会社の減産合意報道を受け供給不足感が高まり、期末に向けて上昇しました。円の対米ドル相場は、日米の金利差拡大を背景に円安が進行し、3月には151円台の水準に、期平均では前年同期比10円円安の145円となりました。 <連結業績の概要>こうした状況のもと、当連結会計年度における売上高は、原油価格の下落に伴う石油製品販売価格の下落や金属価格の下落等により、前年同期比7.7%減の13兆8,567億円となりました。また、営業利益は、前年同期比1,836億円増益の4,649億円となりました。在庫影響(総平均法及び簿価切下げによる棚卸資産の評価が売上原価に与える影響)を除いた営業利益相当額は、前年同期比1,467億円増益の3,932億円となりました。金融収益と金融費用の純額168億円を差し引いた結果、税引前利益は、前年同期比1,907億円増益の4,481億円となり、法人所得税費用1,026億円を差し引いた当期利益は、前年同期比1,425億円増益の3,455億円となりました。なお、当期利益の内訳は、親会社の所有者に帰属する当期利益が2,881億円、非支配持分に帰属する当期利益が574億円となりました。 (注)上図内の原油価格、銅価、為替レートは期平均値です。 セグメント別の概況は、次のとおりです。 [エネルギーセグメント]国内の石油製品需要は、構造的な需要減少により新型コロナウイルス感染症のまん延前を下回る水準で推移しています。他方、アジアの石油化学製品需要は、中国を中心に堅調に伸長した結果、前連結会計年度を上回る水準で推移しました。 <基盤事業>国内需要の減少が続く中にあっても、国民生活に不可欠な石油製品の安定供給の使命を果たし、サプライチェーンの最適化・効率化・強靭化によりキャッシュ・フローを創出すべく、次の諸施策に取り組みました。 (石油精製販売事業)●SSネットワークの強化国内最大のSSネットワークを一層強固な事業基盤とすべく、お客様の利便性や満足度を高めるために様々なサービスを展開しました。具体的には、前連結会計年度に展開した「ENEOS SSアプリ(2024年4月1日に「ENEOS公式アプリ」に改称)」にて利用可能なクーポン種類の拡大やWebカーメンテナンス予約システム「エネアポ予約」への連携を開始しました。また、SSにおいて「Vポイント」・「楽天ポイント」・「dポイント」の3つのポイントが利用可能なマルチポイントサービスの付与対象カードを拡大しました。 ●製油所の信頼性向上に向けた取組製油所の信頼性向上のため、検査プログラムの強化・前倒し、保全計画の改善、工事品質の向上、運転トラブルの削減の4本柱を軸として活動しています。検査プログラムの強化・前倒しについては、検査範囲を拡大し、潜在リスクの網羅的な洗い出しを行って、操業影響の大きい箇所から順次検査を実施しています。保全計画の改善については、これまでのトラブルから得られた知見及び操業に与える影響を踏まえて優先順位を改めて評価し、点検・補修の強化を行っています。工事品質の向上については、施工事業者との意見交換やお互いの知見を共有し、具体的な施工内容に応じて社外のスペシャリストの知見も取り入れ、施工品質に起因するトラブルの撲滅に取り組んでいます。運転トラブルの削減については、ベテランの勘所の手順化、若手運転員の体感型教育等を通じ、非定常操作の確実性向上に取り組んでいます。さらに今年度からは、上記4本柱を確実に達成するための仕組み作り(エンジニア・運転員の教育や増員、運転・保全・技術の連携を強化する組織)にも力を入れています。 ●デジタル技術の積極導入株式会社Preferred Networksとともに、熟練運転員のノウハウが求められる石油精製・石油化学プラントのオペレーションを自動化するAIシステムを開発し、国内初となるAI技術による石油化学プラントの連続自動運転を実施しています。また、同社との合弁会社である株式会社Preferred Computational Chemistry(以下、PFCC)より、共同開発した新物質開発・材料探索を高速化する汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis?」のクラウドサービスについて米国の企業・団体向けにもサービス提供を開始しています。同サービスは2023年12月1日時点で、国内外70以上の企業・研究団体に導入され、触媒、電池材料、半導体、合金、潤滑油、セラミック材料、化学材料等、幅広い開発に用いられています。Matlantis?のさらなる展開にも取り組んでおり、HPCシステムズ株式会社、PFCCと三社共同で革新的な計算速度で化学反応経路を自動探索する「GRRM20 with Matlantis」を開発、サービス提供を開始しました。また、株式会社イクシスと、ロボティクスを活用したプラント・次世代型エネルギー設備への保守点検サービス事業について協業検討を進めています。 (石油化学事業)将来的な競争力・収益力の強化を図るべく、付加価値の高い誘導品事業の拡大に取り組みました。その一環として、超高圧・高圧電線の絶縁用途に使用されるポリエチレンの生産能力増強(約3万トン、投資額約120億円)を進め、新設装置が2024年2月に完工しました。また、バイオ原料を使用したエチレン誘導品の製造・販売を目指し、株式会社日本触媒及び三菱商事株式会社(以下、三菱商事)と共同で、バイオ原料に関わる市場調査、バイオ誘導品の製造・販売の実現性を評価し、バイオ誘導品のサプライチェーン構築検討を行っているのに加え、サントリーホールディングス株式会社(以下、サントリーホールディングス)及び三菱商事と、バイオ原料を使用したバイオパラキシレンからサステナブルPET樹脂までのサプライチェーン構築に取り組んでいます。この他、サントリー食品インターナショナル株式会社及び協栄産業株式会社と協働し、ENEOSのサービスステーションを活用した使用済みペットボトル回収、並びにリサイクルチェーン構築の実証を実施中です。 (潤滑油事業)潤滑油事業においては、EVのさらなる普及を見据え、EVの駆動システムの特性に合わせたEV専用油の開発及び国内外での顧客獲得に取り組みました。また、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するため、植物由来の原料を使用した潤滑油・グリース商品「ENEOS GXシリーズ」及びデーターセンターにおいて冷却効率の高い液浸冷却を行うサーバー用液浸冷却液「ENEOS IXシリーズ」の販売を開始しています。 <成長事業>「脱炭素・循環型社会」「デジタル革命」及び「ライフスタイルの変化」は、これまで以上のスピード感で進展することを見据え、成長事業の育成・強化に向けた諸施策に取り組みました。 (素材事業)機能材事業においては、株式会社ENEOSマテリアル(以下、ENS)が有する販売ネットワークを活用した石油樹脂等の拡販等ENEOSとENSの機能材事業の統合シナジー最大化へ継続的に取り組むとともに、電気自動車(EV)にも使用される高機能タイヤ用エラストマーSSBR(溶液重合スチレン・ブタジエンゴム)やEVへの搭載を主とする二次電池の材料を成長事業と位置づけ、競争力の強化に取り組みました。 (バイオ燃料・SAF)航空業界における脱炭素化の進展を見据え、持続可能な航空燃料(SAF)の量産体制の確立に向け、TotalEnergies社(以下、トタルエナジーズ)と、和歌山製造所におけるSAF製造に関する事業化調査を実施中です(年間SAF製造能力約30万トン(40万kl))。主な原料である廃食油については、株式会社野村事務所、株式会社吉川油脂と連携し、現状輸出又は廃棄され国内未活用となっている廃食油を日本各地から安定的に調達する仕組みを構築中です。2023年9月には、サントリーホールディングスとも、国内未活用の廃食油調達における協業を発表しました。さらに、三菱商事と、SAFを含む次世代燃料の社会実装に向けた共同検討を実施することに合意しました。ENEOSが有する製造技術及び販売網と三菱商事が有する国内外の原料調達及びマーケティングに関する知見を活用し、次世代燃料のサプライチェーン構築の早期実現に貢献します。また、AMPOL Australia Petroleum社と、同社のリットン製油所(豪クイーンズランド州)におけるバイオ燃料製造を検討するための覚書を締結しました。加えて、両社と豪クイーンズランド州政府は、同州政府が公式に本検討への支援を検討する覚書を締結しました。 (次世代型エネルギー供給・地域サービス事業)●エネルギーサービス・再生可能エネルギー事業2023年4月にENEOSが国内に有する太陽光・陸上風力・洋上風力の各発電事業及び関連する事業をジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社(2024年4月1日付でENEOSリニューアブル・エナジー株式会社に商号変更)に移管しました。これにより効率的な発電所の開発・運営を推進することで、ENEOSグループの再生可能エネルギー事業の成長をさらに加速させていきます。2023年度の具体的な取組としては、国内で合計約5万kWの太陽光発電所及び陸上風力発電所に着工したことに加え、2024年3月には公募入札にて八峰能代洋上風力発電事業(発電設備出力37.5万kW)を落札しました。また、海外では豪クイーンズランド州でEdenvale Solar Park(総発電容量約20.4万kW)が運転を開始しました。2022年度よりトタルエナジーズとともに取り組んでいる法人向け太陽光発電自家消費支援事業においても、2027年までに2GWの発電容量を開発することを目指し、日本を含むアジア各国で引き続き営業活動を行っています。これらの取組の結果、ENEOSグループ全体の2024年3月末時点の再生可能エネルギー発電容量(建設中含む)は124.1万kWとなりました。 ・水素事業本格的な水素の大量消費社会を見据えて、CO2フリー水素サプライチェーンの構築に取り組んでいます。国内外の広範囲なアライアンスを活用するとともに、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施する「グリーンイノベーション基金事業」(GI基金事業)等の支援も受け、実証事業や独自技術の開発等に取り組みました。具体的には、豪州、マレーシア、中東、米国にて、上流サプライチェーン構築に向けた協議を進めるとともに、国内のコンビナートエリアで大規模なCO2フリー水素の活用に関する共同検討を大阪ガス株式会社及びJFEスチール株式会社と開始しました。水素キャリアとして期待されるメチルシクロヘキサン(MCH)を安価に製造する独自技術「Direct MCHR」について、豪クイーンズランド州に建設した工業的に使用される電極面積を有する電解槽(150kW級、水素30Nm3/h相当)実証プラントにて、再生可能エネルギーを用いたMCH製造を行いました。その豪州産MCHを日本に輸入して水素を取り出し、燃料電池小型バスへ充填・走行させることにも成功しています。また、「裾野市CO2フリー水素ステーションを活用したパイプライン水素供給システムの開発」が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業に採択され、Woven Cityの近隣にENEOSが建設中の水素ステーションを活用した実証事業に向けた計画策定に着手しました。北海道では、国内最大規模となる国産グリーン水素サプライチェーン構築に向けて、出光興産株式会社及び北海道電力株式会社との共同検討に関する契約を締結しました。水素ステーションは、新たに1か所で営業を開始したほか、一部ステーションでの営業を終了した結果、運営中の水素ステーションは合計38か所(2024年3月末時点)となりました。 ・合成燃料再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素とCO2を原料とする合成燃料の技術開発について、GI基金事業の支援を受け、早期技術確立を目指して各反応工程の性能向上と、プロセス全体の高効率化に取り組んでいます。中央技術研究所敷地内に1バーレル規模の小規模プラント建設を進め、2024年度から実証運転を開始する計画です。また、合成燃料を実際の車両に充填、走行デモンストレーションを行い、従来のガソリンと変わらない自動車走行を確認しました。 ・VPP事業2023年8月に根岸製油所、2024年3月に室蘭事業所にそれぞれ大型蓄電池を設置し、運用を開始しました。室蘭事業所の蓄電池は出力50MWと国内最大級の系統用蓄電池であり、この調整力を需給調整市場及び卸電力市場へ提供することで電力の安定供給並びに再生可能エネルギーの拡大に貢献していきます。また、2023年5月に埼玉県さいたま市浦和美園地区において家庭用蓄電池の遠隔制御を行う技術実証を開始しました。本実証で得た知見を活かし、分散型エネルギーリソースを活用したVPP事業の実現へ向けて準備を進めていきます。 ・地域コミュニティとの連携次世代型エネルギーの推進と地域づくりを実現すべく、静岡県及び静岡市と締結した基本合意書に基づき、清水製油所跡地(清水油槽所内遊休地)を中心とした次世代型エネルギー供給プラットフォームの構築を進めています。エネルギーマネジメントシステムを活用し、地産の再生可能エネルギーの有効活用を図るとともに、災害時(停電時)には自立的にエネルギー供給を行うことにより、地域防災・減災にも貢献していきます。 ●モビリティサービス・ライフサポート・モビリティサービス事業個人向けカーリース「ENEOS新車のサブスク」と「ENEOSカーリース法人プラン」を展開しています。SS店頭でのカーリース取扱いは全国約1,700か所となっており、個人向けについてはWebでのお申込みも可能になりました。2023年度からはEVを車種ラインナップに加えており、今後もお客様の多様なニーズに応えます。また、EVの普及を見据え、SS及び商業施設へENEOS Charge Plus急速充電器及び普通充電器の設置を拡大しており、日本電気株式会社から運営権を承継した普通充電器約6,100基と併せ、充電ネットワークの拡充を図っています。加えて2023年度は、個人EVユーザー向けに、充電器検索から決済まで完結できる「ENEOS Charge Plus EV充電アプリ」を、法人EVユーザー向けに、業務車両の充電を一括管理できる「法人充電会員カード」をリリースする等、さらなる利便性の向上を図っています。さらに、北米のスタートアップ企業であるAmple社とEVの蓄電池交換サービス提供に向けて、2023年3月に京都市において一部パートナー企業と共に実証試験を開始しました。また、東京都世田谷区に出資先のスタートアップ企業であるOpenStreet株式会社と株式会社Luupの電動モビリティ、また株式会社Gachaco(以下、Gachaco)の電動二輪車用共通仕様バッテリーのシェアリングサービスを一堂に集めて提供する「ENEOSマルチモビリティステーション」を開設し、モビリティ事業の推進を図っています。 ・ライフサポート事業SSを物流拠点として活用する「配送効率化事業」の推進に向けて、三菱商事との合弁会社であるLife Hub Network 株式会社を設立しました。全国各地のSSを荷物の一時保管かつ最終配送拠点とすることで、配送先までの走行距離を短縮し、ドライバーの負荷軽減及び配送の効率化を目指します。また、SSが地域の生活拠点として進化していくことを目指し、次世代SSの実証店となる「ENEOSプラットフォームひたち野うしくSS」を2024年3月末に開所しました。 (環境対応型事業)バッテリーのユース・リユース・リサイクルが循環する仕組み「BaaS(Battery as a Service)プラットフォーム」の構築を目指し、2022年4月、電動モビリティの普及を目的に国内大手二輪メーカー4社と共同で設立したGachacoが補助金交付事業として東京都内、及び大阪市内を中心にバッテリー交換機の設置を促進するとともにサービス展開を開始しました。2024年3月末時点において、東京都内で41か所のバッテリー交換機の設置が完了すると共に個人向けサービスも一部開始しました。また、脱炭素・循環型社会の実現に向けて、廃プラスチックを利用したアスファルト舗装技術を開発し、実証試験を開始したほか、使用済タイヤからタイヤ素原料を製造するケミカルリサイクル技術を確立すべく、GI基金事業の支援のもと、株式会社ブリヂストンと共同プロジェクトを進めています。加えて、古紙を原料とした国産バイオエタノールの事業化に向けて、TOPPANホールディングス株式会社と共同で実証事業を開始します。このほか、三菱ケミカル株式会社と共同でプラスチック油化事業を開始することを決定し、鹿島製油所に隣接する同社茨城事業所に商業ベースで国内最大規模の処理能力を備えたケミカルリサイクル設備を建設中です。 (エネルギーセグメントの業績)エネルギーセグメントの売上高は、前年同期比8.1%減の11兆6,871億円となりました。営業利益は前年同期比2,020億円増益の2,530億円となりました。在庫影響を除いた営業利益相当額は、白油・輸出マージンに含まれるタイムラグがプラスに反転したことに加え、実質の白油マージン、化学品等のマージンが良化したことにより、前年同期比1,651億円増益の1,813億円となりました。 [石油・天然ガス開発セグメント]石油・天然ガス開発セグメントにおいては、基盤事業である石油・天然ガスの開発・生産事業を軸としつつ、CCS/CCUS(*1、2)を中心とした環境対応型事業を成長事業と位置付けてもう一つの軸とする「二軸経営」を展開しています。* 1 CCS:二酸化炭素回収・貯留* 2 CCUS: 二酸化炭素回収・有効利用・貯留 <基盤事業>●環境にも配慮したエネルギーの安定供給石油・天然ガス開発事業においては、安定供給と環境負荷の低減の両立に取り組んでおり、当連結会計年度においても着実に推進しました。インドネシアにおいては、タングーLNGプロジェクトの液化設備の増設が完了し、生産能力を大きく向上させました。マレーシアにおいては、国営エネルギー会社であるPETRONAS社と、高濃度CO2ガス田の開発とCCS事業を組み合わせた「BIGSTプロジェクト」に関する生産分与契約を新たに締結しました。米国においては、火力発電所の燃焼排ガスからCO2を分離・回収し、回収したCO2を油田へ圧入して原油増産に繋げるためのCO2回収プラントの運転を2023年9月に再開し、順調に運転を継続しています。 <環境対応型事業>●環境対応型事業の推進環境対応型事業としては、国内外においてCCS/CCUSを中心に推進しており、当連結会計年度においては、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構と令和5年度(2023年度)「先進的CCS事業の実施に係る調査」の受託に関する契約の締結、豪州における石油・ガス大手のSantos社との日豪間のCCSバリューチェーン構築に向けた共同検討に関する覚書の交換等を行いました。また、2024年4月、今後必要となる最先端の技術・知見を集約し、効率的な研究開発を行うe-テクノロジー・イノベーションセンターを設立しました。さらに、脱炭素社会に向けた様々な実証や他社、大学等との協業を推進する中条共創の森オープンイノベーションラボの新事務所建設も進め、2024年6月に完成しました。 (石油・天然ガス開発セグメントの業績)石油・天然ガス開発セグメントの売上高は、前年同期比1.9%増の2,049億円となりました。営業利益は、既存ガス田拡張プロジェクトの出荷開始による数量増及び日本海洋掘削株式会社の子会社化・利益取込みによる良化があったものの、資源価格下落影響がこれらを上回ったことにより、前年同期比225億円減益の915億円となりました。 [金属セグメント]薄膜材料事業及び機能材料事業を主力とするフォーカス事業については、半導体市場における生成AI向け高性能半導体用途の需要増加はあるものの、各種民生用電子デバイスの需要減退やスマートフォン需要の回復の遅れに伴うサプライチェーンにおける在庫調整の継続、中国の景気減速等の要因により販売量は前年を下回り、減益となりました。ベース事業については、SCM Minera Lumina Copper Chile(以下、MLCC)の株式譲渡による利益の?落や、パンパシフィック・カッパー株式会社(以下、PPC)の株式の一部譲渡に伴う資産の公正価値評価損失を計上したものの、円安による為替評価益や、前年度のMLCC株式譲渡決定に伴う資産の公正価値評価損失の反転により、前年同期に対し増益となりました。 <フォーカス事業>(半導体材料事業)●薄膜材料事業半導体需要の拡大を見据え、半導体用スパッタリングターゲットの機動的な供給体制を構築すべく、国内外で新工場の建設を進め、生産能力の増強に取り組みました。茨城県日立市においては、2023年10月に日立北工場が竣工し、米国アリゾナ州メサにおいても新工場の建設を進め、2024年5月末時点で新工場建屋の大部分の建設が完了しました。両工場とも生産設備の搬入を進めており、いずれも2024年度の操業開始を目指しています。 ●タンタル・ニオブ事業半導体用スパッタリングターゲットを中心に世界的に需要増が見込まれる高純度タンタル粉末の安定供給のための施策として、タイ拠点における生産能力増強を進めています。本設備投資ではタンタル粉末製品の製造設備を増設するとともに、分析棟を増設し品質管理体制の強化を図っています。さらには、開発・試作に関する設備を新設し、顧客のニーズに迅速に応える体制を強化します。本設備は現在建設中であり、2025年を目途に順次稼働開始の予定となっています。 (情報通信材料事業)●機能材料事業将来のIoT・AI社会の進展により、高速通信の普及、各種先端デバイスの小型化、高機能化等に加えて、CASE化が進むモビリティ分野の伸長等にけん引され、JX金属株式会社(以下、JX金属)が取り扱う製品の需要は拡大すると予測されます。こうした情報通信及びモビリティ分野製品における高機能化に貢献すべく、導電性や耐熱性等の機能に優れ、薄箔化も可能という特性を有する高機能銅合金製品を新たに開発し、顧客へのプロモーションを開始しています。その一環として、高機能銅合金製品にかかわる原料供給網を強化する目的で、JX金属が33.4%の株式を有していた株式会社大阪合金工業所の株式を52.6%まで追加取得し、子会社化しました。重要な原料調達における一層のサプライチェーンの強化を図り、JX金属の先端素材の安定供給及び将来の新製品開発に活かします。また、2023年12月、めっき・プレス加工の外注を請け負っている子会社であるJX金属プレシジョンテクノロジー株式会社(以下、JXPT)の株式85%を株式会社マーキュリアインベストメントが無限責任組合を務めるマーキュリア日本産業成長支援2号投資事業有限責任組合(以下、MIC社)に譲渡しました。株式譲渡により、JX金属が強みを持つ先端素材分野に経営資源を更に集中させることが可能となります。また、MIC社は政府系金融機関を源流とする、産業競争力強化を目的とした上場投資会社です。同社を中心とする新たな経営体制のもとで、新領域への事業拡大、生産性の向上施策等を通じJXPTはさらなる成長が期待されます。 ●チタン事業(東邦チタニウム株式会社)東邦チタニウム株式会社では、通液性・導電性といった金属多孔質体の特長と、チタンの長所である高耐食性や強度を併せ持つ新素材であるチタン多孔質体WEBTiの開発を進めております。近年は、次世代のエネルギー「水素」を製造する水電解のうち、特に再生可能エネルギーとの相性が最も良いとされるPEM型水電解方式に用いられる材料として注目を集めています。2050年カーボンニュートラルの実現に向けた水素関連技術として、各国が水電解方式に関する多くのプロジェクトを進めています。既存のエネルギーを水素で置き換えるには多大な水電解能力が必要であるため、そこに利用されるWEBTiも需要の拡大が期待されます。 ●タツタ電線株式会社へのTOB開始を決定JX金属は、2022年12月開催の取締役会において、完全子会社化を目的として、タツタ電線株式会社の普通株式を金融商品取引法に基づく公開買付けにより取得することを決議しました。また、同社が設置した特別委員会において本公開買付けに賛同の意見を表明するとともに、同社の取締役会が本公開買付けへの賛同及び応募を推奨する旨の決議をしています。その後、日本における競争法に基づく必要な手続きは完了したものの、中国における競争法に基づく必要な手続きについては完了していませんでしたが、2024年6月11日に中国競争当局よりクリアランスを取得しました。これを含む本公開買付実施の前提条件がいずれも満たされたため、本公開買付を同年6月21日より開始することを決定しています。 ●ひたちなか新工場の建設工事開始急速に進展する社会のデジタル化に不可欠な最先端素材の安定供給のニーズに応えるべく、茨城県ひたちなか市に取得した大規模用地(約24万㎡)において、新工場建設に向けた造成工事を進めています。当新工場は、半導体用スパッタリングターゲットといった既存の世界トップシェア製品をはじめとして、社会のデジタル化進展に欠かせない先端素材の製造・開発を担うJX金属グループの中核拠点となる予定です。また、新工場建設により、日立事業所と磯原工場と合わせて3つの主要拠点が茨城県内に所在することから、建設工事の推進と並行して、管理間接部門の集約も含めて茨城県全域における最適な組織運営体制の検討を進めています。 <ベース事業>(基礎材料事業)●資源事業2023年7月にチリのカセロネス銅鉱山の運営会社であるMLCCの株式51%をカナダのLundin Mining社へ譲渡しました。これにより高い鉱山運営能力を持つパートナーが得られ、生産性向上やコスト競争力強化のみならず、Lundinグループが近隣に持つ探鉱プロジェクトとの一体開発により山命延長等の長期的事業運営が可能となります。今後は先端素材事業を中心とした注力分野へ経営資源を更に集中していくとともに、資源事業における長期的な収益基盤の強化を図ります。 ●金属・リサイクル事業2024年3月にJX金属が67.8%を有していたPPC株式の20%を丸紅株式会社(以下、丸紅)に譲渡しました。今回の取引を通して丸紅とのパートナーシップをより強固なものとし、丸紅のネットワークを活用した販売先の拡充、原料調達におけるレジリエンス強化等、様々なシナジーが期待でき、ベース事業のさらなる競争力強化を図ることができます。また、株式譲渡によりPPCが連結子会社から持分法適用会社となることにより、連結売上高営業利益率が大きく上昇し、さらには連結有利子負債が大幅に減少することで、金属セグメントの収益性・財務体質の大きな改善が見込まれます。 <研究開発>今後、半導体の微細化や多層化がさらに進んでいく中で、スパッタリング法に加えて、CVD・ALD(*3、4)による薄膜形成のニーズも高まることが見込まれます。次世代半導体向けCVD・ALD材料の開発テーマ探索から量産化までを一貫して担い、早期事業化を推進することを目的に、JX金属は2024年2月に「技術本部技術戦略部」内に「CVD・ALD材料事業推進室」を設置しました。また、インジウムリンやカドミウムジンクテルルをはじめとする結晶材料の分野は、データセンターやモバイル通信量の増加、さらには、センシング技術の高度化等により、今後飛躍的な成長が見込まれています。フォーカス事業における次世代の収益の柱とするべく、事業規模拡大に向けた取組の一環として、JX金属は2024年4月に既存の「技術本部 技術戦略部 結晶材料事業推進室」と「薄膜材料事業部 営業部」の一部を統合し、「技術本部 結晶材料事業推進部」として格上げすることとしました。今後、市場変化・開発競争がますます激しくなり、技術開発のスピードが一段と加速する中、これまで推進室と営業部が個々で担っていた機能を新組織の中に統合し、結晶材料事業全体の戦略立案機能を一元化することで、迅速かつ着実な事業規模拡大を進めます。* 3 CVD(Chemical Vapor Deposition):化学気相成長法(化学反応を活用して薄膜を形成する方法)* 4 ALD(Atomic Layer Deposition):原子層積層法(原子層レベルで膜厚を制御して薄膜を形成する方法) (金属セグメントの業績)金属セグメントの売上高は、MLCCの株式譲渡に伴う連結範囲からの除外、エレクトロニクス関連市場サプライチェーンの在庫調整に起因する減販等を主因に、前年同期比7.6%減の15,131億円となりました。営業利益は、減収による影響はあるものの、円安による為替評価益や前年度のMLCC株式譲渡決定に伴う資産の公正価値評価損失の反転等により、前年同期比124億円増の811億円となりました。 [その他]その他の事業における売上高は前年同期比4.0%減の4,920億円、営業利益は前年同期比47億円増益の512億円となりました。 ●株式会社NIPPO株式会社NIPPO(以下、NIPPO)は、舗装、土木及び建築の各工事並びにアスファルト合材の製造・販売を主要な事業内容としています。当連結会計年度は、公共投資は底堅く、民間設備投資は企業の高い設備投資意欲に支えられ増加傾向にあったものの、原材料価格の上昇や労働需給ひっ迫の影響を受け、厳しい経営環境にありました。このような事業環境下、NIPPOが有する技術の優位性を活かした受注活動、原材料価格の上昇に対応したアスファルト合材の適正価格での販売、生産性の向上及びコスト削減の推進により、競争力の強化に努めました。また、カーボンニュートラル社会の実現に向け、全事業所へのCO2フリー電力の導入、CO2排出削減に効果がある中温化合材の販売拡大等、CO2の削減に向けた取組を推進します。 上記各セグメント別の売上高には、セグメント間の内部売上高405億円(前年同期は460億円)が含まれています。 (2)生産、受注及び販売の実績ア.生産実績当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。セグメントの名称金額(百万円)前年同期比(%)エネルギー6,830,81484.0石油・天然ガス開発181,90490.1金属1,228,39696.7その他91,63696.3合計8,332,75085.9(注)1.上記の金額は、各セグメントに属する製造会社の製品生産金額の総計(セグメント間の内部振替前)を記載しています。 イ.受注実績当社グループでは主要製品について受注生産を行っていません。 ウ.販売実績当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。セグメントの名称金額(百万円)前年同期比(%)エネルギー11,682,78891.9石油・天然ガス開発204,863102.1金属1,512,10592.5その他456,90696.4合計13,856,66292.3(注)1.セグメント間の取引については、相殺消去しています。 (3)財政状態及びキャッシュ・フローの概況①流動性と資金の源泉当社は、効率的で安定的な資金の確保と、事業活動のための流動性の維持を、財務活動の取組として重視しています。効率的な調達に向けて、コマーシャル・ペーパーや社債等の直接金融と、金融機関からの借入等の間接金融を、機動的に選択しています。当社は、安定的な資金の確保に向けて、直接金融市場への継続的なアクセスを図るとともに、間接金融についても原油備蓄資金のための制度融資等も活用しており、政府系金融機関及び市中金融機関と幅広く関係を維持しています。また、トランジション・リンク・ローンといったサステナブル・ファイナンスによる資金調達を実施する等、調達ソースの多様化を図って十分な流動性を確保しています。また、金融市場の環境変化にも対応できる流動性を維持するために、現金及び現金同等物を確保する他、取引金融機関と特定融資枠契約(コミットメントライン契約)を締結しています。当該契約の極度額は当連結会計年度末では4,550億円であり、また同契約に係る借入残高はありません。連結における資金管理では、当社を中心に集中して資金調達を行い、国内外の金融子会社を通じてグループ各社に資金を配分するというグループファイナンス制度を設けています。その運営においてキャッシュマネジメントシステムを活用しており、流動性資金の一元管理及び効率化を実現しています。当社は、資金調達とグローバルなビジネスを円滑に行うため、格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)、ムーディーズ・ジャパン(ムーディーズ)の3社から格付けを取得しています。3社の2024年6月時点の当社に対する格付け(長期/短期)は、R&IがA+(見通し安定的)/a-1、JCRがAA-(見通し安定的)/J-1+、ムーディーズがBaa2(見通し安定的)/(短期は取得無し)となっています。 ②連結財政状態計算書ア.資産 当連結会計年度末における資産合計は、手元資金の増加等により、前連結会計年度末比1,820億円増加の10兆1,365億円となりました。イ.負債 当連結会計年度末における負債合計は、資産売却や税金の還付等による有利子負債の減少により、前連結会計年度末比2,342億円減少の6兆4,327億円となりました。有利子負債残高は、前連結会計年度末比2,894億円減少の2兆8,200億円となり、また、手元資金を控除したネット有利子負債は、前連結会計年度末比7,601億円減少の2兆円となりました。なお、有利子負債にはリース負債を含めていません。ウ.資本 当連結会計年度末における資本合計は、配当金の支払いによる減少等があったものの、当期利益の計上等により、前連結会計年度末比4,162億円増加の3兆7,038億円となりました。 なお、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末比3.1ポイント上昇し31.8%、1株当たり親会社の所有者帰属持分は前連結会計年度末比131.15円増加の1,079.82円、ネットD/Eレシオ(ネット・デット・エクイティ・レシオ)は前連結会計年度末比0.30ポイント改善し、0.54倍(ハイブリッド債資本性調整前)となりました。 ③連結キャッシュ・フロー当社は、第3次中期経営計画において、「確かな収益の礎の確立」を基本方針の柱の一つとして掲げ、基盤事業から安定的なキャッシュ・フローを創出していきます。また、そのキャッシュを、現在の財務体質を堅持しながら、再生可能エネルギー事業の育成やSAF・水素等への取組に再配分することで、もう一つの柱である「エネルギートランジションの実現に向けた取組」を加速させていきます。なお、当連結会計年度の各キャッシュ・フローの状況と主な要因は以下のとおりです。ア.営業活動によるキャッシュ・フロー営業活動の結果、資金は1兆103億円増加しました(前期は1,102億円の減少)。これは、税引前利益や減価償却費等の資金増加要因によるものです。イ.投資活動によるキャッシュ・フロー投資活動の結果、資金は2,410億円減少しました(前期は1,159億円の減少)。これは、主として製油所における石油精製設備の維持・更新のための投資や再生可能エネルギー事業への投資によるものです。ウ.財務活動によるキャッシュ・フロー財務活動の結果、資金は3,310億円減少しました(前期は133億円の減少)。これは、ハイブリッド社債の発行等の資金増加要因があったものの、借入金の返済や配当金の支払及び自己株式の取得といった株主還元施策等の資金減少要因が上回ったことによるものです。 この結果、当連結会計年度末における現金及び現金同等物は7,759億円となり、期首に比べ4,644億円増加しました。 (4)重要性のある会計方針及び見積り当社の連結財務諸表はIFRSに準拠して作成しています。当社は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第1条の2に掲げる「指定国際会計基準特定会社」の要件を満たすことから、同規則第93条の規定を適用しています。重要性のある会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 連結財務諸表 注記3、4」をご参照ください。

※本記事は「ENEOSホールディングス株式会社」の令和6年3月期 有価証券報告書を参考に作成しています。

※1.値が「ー」の場合は、XBRLから該当項目のタグが検出されなかったものを示しています。 一部企業では当該費用が他の費用区分(販管費・原価など)に含まれている場合や、報告書には記載されていてもXBRLタグ未設定のため抽出できていない可能性があります。

※2. 株主資本比率の計算式:株主資本比率 = 株主資本 ÷ (株主資本 + 負債) × 100

※3. 有利子負債残高の計算式:有利子負債残高 = 短期借入金 + 長期借入金 + 社債 + リース債務(流動+固定) + コマーシャル・ペーパー

※4. この企業は、連結財務諸表ベースで見ると有利子負債がゼロ。つまり、グループ全体としては外部借入に頼らず資金運営していることがうかがえます。なお、個別財務諸表では親会社に借入が存在しているため、連結上のゼロはグループ内での相殺消去の影響とも考えられます。

この記事についてのご注意

本記事のデータは、EDINETに提出された有価証券報告書より、機械的に情報を抽出・整理して掲載しています。 数値や記述に誤りを発見された場合は、恐れ入りますが「お問い合わせ」よりご指摘いただけますと幸いです。 内容の修正にはお時間をいただく場合がございますので、予めご了承ください。

報告書の全文はこちら:EDINET(金融庁)

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